と思ったらなんか汗の滴る常磐さんが脳内にいてな…



というわけで短いジュニ磐文。
続きからどうぞー。

「あっちー…」
 
　ワイシャツが背中にべったりと張り付く感触に眉を顰める。手をぱたぱたと動かしてみるもほんの少し、生温い空気が動くだけで何の救いにもならない。どうしてこう駅の中というのは地獄のように暑いのだろう。通路は風の通り抜けが悪くサウナの様だしホームに出ればじりじりと肌を焼く熱い日差しが降り注ぐ。容赦なく日の光を浴びたコンクリートから立ち上る熱気も死にたくなるような暑さに輪をかけている。
　そんな中をかいくぐってきたというのに事務所の中は事務所の中でこのご時世、28度設定だ。扉を開けて爽快感を感じるにはいささか物足りない。昔は車内だって寒いくらいに冷えていたのに。あの時代が懐かしい。クーラーの真下に陣取ってみるが背中を流れ落ちる汗はなかなか引かなかった。

「こら、ちゃんと汗を拭け」

　声と同時に放られたタオルが頭にばさりと落ちてくる。視界を遮るタオルをずらして後ろを向くと、盆を手にした東海道の姿があった。夏用に裏地無しで作られているとはいえ流石に暑いのだろう。オレンジ色の詰襟は脇に抱えられている。

　「物なげるとかジュニア行儀わるーい」

　「お前に言われたくねぇよ」
　

　言いながらジュニアはテーブルに盆を置き、制服を椅子の背もたれにかけて席につく。盆の上に乗ったどんぶりからは湯気が漂い、だしの匂いが鼻を刺激した。この黒いどんぶりは駅の立ち食いそばのものだろう。

「このくそ暑いのに熱いそば食うのかよ」

「暑いときこそ熱いものだろうが。冷たいものばっかり食べてたら体壊すしな」

「うわ爺」

「お前だって対して年齢変わらないだろう。お前だって」

　そういうことを言っているくせに外の空気の入り易い立ち食いそば屋の店舗で食べてくるのではなく、わざわざ休憩室にそばを持ってくるというのはやっぱり暑さに負けたからなんじゃないのか。ずるずるとそばをすするジュニアの背中にはやはり大きな汗染みが出来ている。制服をきっちり着込んでくっそ真面目な顔をして、働いてきたんだろう。その姿は容易に想像できる。
　オレは風の当たる場所を離れそろりとジュニアに近付いて、ずしりとその背中に体重をかけた。驚いたのかバランスを崩したのか、箸で掬われていたそばがばちゃりとつゆの中に落下する。ここからでは見えないが、恐らくワイシャツにも跳ねただろう。

「うっわ不快。べとついて気持ち悪い」

「ば…！何すんだお前は！不快なら離れろ！」

　暑いからか汚れたワイシャツを気にしてか誰かに見られる危険性を思ったからかはたまた全部か、どれかは分からないが焦ったような声をあげるジュニアを無視し、更に体重をかけて密着度を上げる。

「じゅにあーメシ行こうぜ」

「あのなぁ今オレはメシを食ってるんだが」

　オレが離れるという選択肢はない事を悟ったのだろう、ジュニアは小さく嘆息する。

「じゃなくて夜ー。ぎっんぎんに冷えたビールが飲みたい」

　少しの間があって、背中を向けていたジュニアが少しだけこちらを振り向いた。じっとりとしたその目はどこか怪訝そうだ。

「…それは他に誰か誘うのか？」

「え？人数増やしたらジュニアの財布つらくね？」

「何でオレがおごる前提なんだよ！」

「えーじゃあ10杯で我慢してやっからさー」

「奢らねぇよ！」

　まあそう言われるのは想像通りだ。けらけら笑いながらジュニアから体を離した。互いの汗ですっかりべたついた体を、クーラーが冷やすがでもやっぱり火照った体には弱冷房のクーラーなんかじゃ力が足りない。

「じゃーオレは仕事に戻りますかねー」

　外は今が一番暑い時間だ。だがジュニアをからかって気分転換はできた。少しくらいは気力も湧いた。うん、少しくらいは。

「ちゃんと定時であがれよ」

　ドアノブに手をかけた瞬間、背中にかけられた声に振り向くと、ジュニアは少し顔を俯けて再びそばを啜っていた。長い前髪でその表情は見えないがどんな顔をしているかは大体想像がつく。

「りょーかーい」

　にまりと笑って、オレはまた暑い駅構内へと足を進めた。地獄の様な暑さを思うとだるいことこの上無いが、多分足取りは少しだけ軽い。







まったくアイツは多分ご飯のあとのアレそれ絶対考えてるだろう。うん。
暑いから仕方ない（何