ついに常磐が試運転開始したそうで。
おめでとう。漸く帰ってきたんだねおかえり。
深夜に試運転始めるとかほんとお兄ちゃん達の目を盗んでなにやってるんですかやだー、となったのでお祝いがてらの超短文。
これから昼間も試運転していくんだろうなー。東京駅に貼りつきたい…
「きちゃった☆」
寝入ったところをがんがんと激しい音で起こされ、重い目を擦りながら部屋の扉を開けるとそこには制服姿の常磐線。額にピースサインを掲げ、ぺろりと赤い舌を出している。その時間と場所に似合わない楽しげな表情に、一瞬何と言葉を紡いでいいか分からなかった。
「きちゃったじゃねぇよ。今何時だと思ってる…」
とりあえず諭す台詞を言ってみたものの、まだ頭がよく働かない。時間はもう日付も変わった深夜1時近く。宿舎ならともかくここ、東京駅の仮眠室に、常磐が姿を現すことなどあり得ない。
いや、有り得なかった、と過去形にするのが正しい。運行表で気付いてはいた。今日、上野東京ラインの常磐線の試運転一番列車が走ることに。
もう常磐が自分の足で東京駅まで来ることが出来るのだ。
試運転開始について言いたかったことがなかったわけではない。昼間は何度もその運行表を眺めていたくらいだ。けれど常磐が来るのは時間的に深夜であったし自分は東京駅に泊まりとはいえ始発対応を控えていたので積もる話は仕事が終わってからと思い、早々に床についていたのだが。
しかしよくよく考えてみれば常磐は深夜だから遠慮しようという気づかいなど微塵もない正確なことぐらい知っていたはずだった。
「ほら、昼間だとアイツ等の目が厳しいし」
口元に手を当て儚げに目を伏せ、何だかやたらと可愛らしい仕草をしてみせる。
アイツ等、というのは勿論宇都宮と高崎の事だ。試運転が始まってからというもの、常磐と昼飯を食べている時や休憩室で話している時などここぞとばかりに割り込みをしてくる。
「それに今日は二人共さっきそれぞれ下りの終電に乗務してるの確認したから乗りこまれる心配もないぜ?」
弟分が心配なのは分かるがいい加減にしろ、と二人に言いたい気持ちでいっぱいだったのだが、そもそもその弟分はそんな兄貴分に黙って従っているような性格ではなかったことを思い知らされた感じだ。
「だからってこんなところで何かできるわけでもないだろう。お前もさっさと寝ろ」
ぐい、と肩を押して扉を閉めようとするのだが思い切り体重をかけて抵抗してくる。
「えーなんだよ嬉しくねぇの?」
「試運転開始は目出たいがそれとこれとは別の話だ」
オレの言葉に常磐は両頬をリスのように膨らませた。そんな不機嫌そうな顔ひとつでこの後控える勤務を蔑ろにできるような軽い責任感は持ち合わせていない。
「わかったよ今日はこれで我慢しといてやる」
そう言って常磐はくるりと身を翻しオレの首元を掴んで力任せに引き寄せると、唇を合わせた。ゆるく開いていた隙間から舌がねじ込まれ、オレの舌は良い様に絡め取られる。
くちゅりくちゅりと湿った音が廊下に響く。突然のことにどう抵抗していいか頭が回らず、オレは常磐のされるがままになっていた。
「ごちそーさま」
どれくらいそうしていたのだろう、常磐は顔をゆっくりと離してぺろりと舌舐めずりをする。その顔は瞳が潤み頬はほんのりと紅く色付きひどく淫靡だった。
ずくり、と心臓が疼く。今迄眠っていた頭が急にはっきりと覚醒してきた。
「じゃーな、おやすみ」
けれど目が覚めたオレに関心などなくしたように、常磐は暗い廊下を颯爽と駆けていった。そこに躊躇いなど微塵も無い。ああ知っているさ、アイツは確信犯だ。
溜息をつきながらその場にしゃがみ込む。
こんな強引なのにこれから毎日付き合っていかなくちゃならないのか…わかっていたはずだが先が思いやられる。大体昂ぶった体をどうしろと言うのだ。これを落ち着けるまでは暫く寝られなさそうだ。
オレはもう一度、大きな溜息をついた。
これからがほんとうに楽しみです。
いっぱい見せつけてくれていいのよ!
電車とかコスプレとかが好きなただのヲタクです。
基本マイナー思考でマイナー嗜好。
好きなものには全力です。
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