ジュニ磐超短文。
恋人未満。

大きな目を見開いて常磐が楽しそうに言った。

窓のふちに腰をかけて脚を外にぶらぶらと垂らしているその姿勢は見ていてひどく危なっかしい。何度かやめるように言ったが勿論そんなこと聞くような奴じゃない。

ここ最近オレが部屋にいるときは毎日のように缶ビールやらワンカップやらを持ち込んでひとりでこのように酒盛りをしている。

咎めれば「だってお前の部屋からしか見えないんだもん、桜」と、口を尖らせこちらをねめつけてきた。

角部屋である自分の部屋は確かに皆の部屋よりひとつ窓が多く、宿舎脇に植えられた桜が部屋の中から拝める。この桜の木が見えるのはここかこの真下の部屋の二か所であり、真下の部屋は現在物置になっている。

「いいじゃん別に減るもんでもなし」

そう言って常磐は桜を眺めたまま、ちびりと手にしている日本酒を舐めるように飲んだ。

確かにコイツにしては珍しく、つまみをたかられるわけでもなく、無理矢理酒に付き合わされるわけでもなく、一人花見を楽しんでいるだけのようだからこちらに被害は無い。無いのだが。

無防備な背中を向けられ続けるこちらの身にもなれ。

心の中で毒づいてオレはなるべくそちらを見ないように、持ち帰った資料に目を落とした。その瞬間ふわりと舞い込んできた風に乗せられて部屋の中に入り込んだ淡いピンク色の花弁が、白黒の資料の上に色を添えた。






桜の花より酒で色づいた頬が気になって仕方ない。