前回の続き。恋人未満ジュニ磐。
(あぁ、これで今年の桜も終わりか)
最後のひとひらが、はらり、と風に舞った。
窓から見える桜の枝はもう柔かな緑色の若葉で彩られている。地面はまだところどころ桜色に染まっているが、それもじきに全て春風で消え去ってしまうだろう。
(ここに来る口実も無くなっちまったなぁ)
また何か別の口実を考えないと。
この部屋の主は桜が散ったことに気付いているだろうか。オレが来ているときはいつも仕事やら読書やらばかりで、外など全く眺めることなどしていなかったから、もしかしたら暫くは気付かないかもしれない。そんなことを考えながら缶ビールをぐいっと煽ったがほんの数滴しか落ちて来なかった。ちぇ、もう少し買ってくれば良かった。
鉄製の柵に置いた腕に顔を埋め、ちらりとジュニアの様子を窺う。こちらに背中を向けてやはり今日も相も変わらず自室でまで仕事をしているようだった。
少しはオレがいるの気にしろっての。
自分とジュニアは、本来接点なんて薄くて、仕事上の絡みもなければ趣味嗜好が合うといったこともない。こうして入り浸ったところであっちの意味で気にされることなんかないことくらいは分かっている。こんなことを望むなんて不毛だ。
側にいられるだけでいいなんて女々しい感情は持ち合わせていないけれど、それでもやはり近くに温度を感じることが嬉しいなんてオレらしくもない。
そう思うのに、今頭の中は桜が散り去った後この部屋に来る方法ばかり。
梅雨になったら雨漏りがして夏になったらクーラーが壊れ秋になったら隙間風、冬はコタツが無いから。去年と同じ理由じゃ怪しまれるだろうか。まぁいいか。バレたっていくらでも誤魔化せる。どうしても誤魔化せなくなったらもういっそ無理矢理押し倒してやろうか。そっちの方が自分らしい。
けれど今はもう少し、この缶ビールが残っている振りをしよう。春の空気は一人でいるにはまだ少し寒い。
中が見えない缶ビールで良かった。
電車とかコスプレとかが好きなただのヲタクです。
基本マイナー思考でマイナー嗜好。
好きなものには全力です。
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