しかし夏だものね!
夏と言えば花火だよね!
でも電車は混雑するから大変だよね!
がんばれ!
というわけで何だか思い付いたようにジュニ磐SSです。
相変わらずのぬっるい砂吐きクオリティですよ!
よろしい方は続きから~。
梅雨も明けて一気に気温は上昇。連日茹だるような暑さの中で、漸くクーラーをがんがんに効かせた休憩室に戻ってきた東海道は詰め襟を少しだけ緩めて大きく息を吐いた。
自動販売機でブラックのアイスコーヒーを購入。アメリカンタイプであまり好みではないのだが今はとにかく冷たいものが飲みたい。
軽快な音楽が鳴り、紙コップにコーヒーがそそがれるのを待っていると、後ろから声がかかった。
「あっれージュニアじゃん。きゅーけー?」
東海道は首だけを巡らせ、こんな暑さの中でもテンションの高い声の主の方に視線を向けた。
開いたままの扉から声の主、常磐線がするりと入り込んで来る。手には丸められた大きなポスターを何本か抱えていた。
「ああ。どうしたんだそれ?」
ん?と東海道の指差すポスターを見て常磐が言う。
「これ?じゃーん!今年の花火大会のポスター!」
常磐がばっと開いて見せたソレには暗い夜闇の中に赤々と散る花が映し出されていた。この時期になるとそこかしこでよく見るポスターだ。
「楽しみだよなー」
はにかむように笑う常磐の、その頬に手を伸ばしたくなるがぐっと我慢。照れ隠しがわりに諌める言葉を紡ぐ。
「そんなに意気揚々としたってどうせオレ達はいけないだろ。乗客の誘導に追われるだけなのに何が楽しいんだ」
つい先日平塚の七夕祭や鎌倉の花火があったばかりである。夏のイベントの記憶はまだ新しい。イベント終了時には駅は人でごった返し、案内やらトラブルやらの対応に追われ、夜も更けきった頃には喉はすっかり嗄れていた。
「ジュニアってそういうとこ情緒ねーよな。電車の中からだって見えんじゃん、花火」
「仕事中は業務に集中しろよ。大体花火にはしゃぐなんて子供っぽい…」
「あーやだやだ堅い堅い。ジュニアになんか話すんじゃなかったー」
東海道の発言を遮るように口を尖らせた常磐はするするとポスターを丸め直すと、荒い足取りで休憩室を出て行った。東海道は暫く常磐の消えた廊下の先を眺め、そして肩を落とした。
ああ失敗した。徹底的に失敗した。
反省しながらとっくに出来上がっていたアイスコーヒーを取り出すと、氷は半分以上溶けていた。
結果として常磐は花火を見ることは敵わなかった。
7月27日、29日と立て続け沿線での花火大会があったにも関わらず、先の日付は急遽会議が入り、お陰で翌日は大層機嫌が悪かった。京浜東北に宥めといて、と言われたが先日の発言が尾を引いているらしくぶっすりむくれらるばかりで聞く耳など持ってもらえなかった。
仕方なく去り際に
「明日は、見られるといいな」
と頭をくしゃりと撫でる。
事務室を出る前に振り返ると、東海道が撫でたことで乱れたその柔らかい紫色の髪の毛を手櫛で直している常磐の背中が見えた。
しかし29日も、常磐は自身の酔客の対応だけでなく、不幸なことに宇都宮も高崎も京浜東北も山手も各地に散って不在だったためそちらの些細なトラブルも一手に引き受けるハメとなり上野駅に縛り付けられることとなった。
「あーもぅむっかつく!!ぐっちぐちぐちぐちてめぇの仕事のできなさなんて知らねーっつの!!てかこんなとこでくだ巻いてるようだから駄目なんだよ!」
時刻は23時を回っていた。休憩室の長椅子に倒れ込むように体を投げ出すと、常磐は声を荒げて言った。
一通り空に文句をぶつけてからはあっと息を吐く。ごろりと体を横に向け、不満たっぷりに呟いた。
「楽しみに、してたのになー…」
「ホラ」
がさり。
と、唐突に頭上から降ってきたビニール袋に驚いた常磐はバランスを崩し、長椅子から盛大に落下した。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫か?じゃねーよ!突然なんだよ!」
ただでさえ下降していた機嫌に追い撃ちをかけたようで上体を少しだけ起こし眉を大きく歪めて叫ぶ常磐に、東海道は右手を差し出した。常磐は暫く不本意そうにその右手を眺め、結局椅子に腕をついて一人で立ち上がった。
東海道はしばらく逡巡し、くっと手の平を軽く握り締めてやり場のなくなった右手を引いた。代わりに制服についた埃を両手で掃っている常磐に、逆の手で握っていた先程のビニール袋を無言で差し出した。
「…何?」
「これなら今からでもできんだろ」
常磐が袋を受取りガサガサと中身を漁ると、出てきたのはコンビニやスーパーで売っている手持ち花火のセットだった。
「…花火なんか子供っぽいんだろ?」
「仕事中は問題だけど終わった後ならたまにはいいかな、と思ったんだよ、子供みたいにはしゃぐのも」
視線を反らしながら言う東海道に、常磐は思わずぷっと息を吹き出した。
「お前ってほんとわかりやすいよなー」
わかりやすい。
そのわかりやすさが、心地良い。
不本意だが、どっぷりと下降していた気分が少しだけ上向くのがわかる。素直に喜ぶのは何だか悔しくて、常磐は騒ぐ心をいつもの悪態で覆い隠した。
「にしてもしょぼいなー。打ち上げくらい入ったやつ買ってこいよ」
「な…!文句付けるならいいんだぞ!やらなくたって!」
「ん、今日はこれだけでいい」
言いながら常磐は一つの花火の束を取り出した。細い紙の軸に上部には濃いピンク色のこより。何の変哲も無い、線香花火。誰でも知っている、けれどいちばん地味な花火。派手好きな常磐のチョイスとしてはいささか違和感がある。東海道は怪訝に思い眉をひそめた。
「ほんとにそれだけでいいのか?打ち上げはなくても他にもっと派手なのあるぞ」
「うん、あとは今度皆でやろうぜ」
言って笑う常磐の顔は、心底楽しそうだった。皆で、と言われて正直思うところがなかったわけでは無い東海道は、内心肩を落とした。でも確かに花火は大人数でやったほうが楽しいだろうし、その方が常磐好みだろう。
「だけどさ」
手にした線香花火をひらひらさせながら常磐が続きの言葉を紡ぐ。
「この花火って二人でやるもんだろ?」
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ちなみに30日は平塚の花火だからこっそり見に行っちゃえばいいよ常磐!
電車とかコスプレとかが好きなただのヲタクです。
基本マイナー思考でマイナー嗜好。
好きなものには全力です。
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