書かないと抜け出ることもできなそうなのでとりあえずUP。
お月見話。
「ジュニアー!月見しようぜ!」
一升瓶を片手にジュニアの部屋の扉を開くと、目の下にクマだらけの顔で恨めしそうに睨まれた。パソコンに向かって何か作業をしている。その両サイドには書類が山のように積み上がっていた。また仕事か。ホントに仕事好きな奴だな、と常磐は少し呆れた。
「十五夜は昨日だぞ…」
「昨日は雨降ってたんだから今日に繰越したんだよ。ほら、とっておきの酒持ってきてやったぜ!」
「飲むなら勝手に飲んでろ」
昨日一昨日とトラブルもあったし通常業務が滞っているのかもしれない。けれどそんなこと常磐の知ったことではなかった。
「少しくらい休憩がてら付き合えよ」
ぐいぐいと腕を引っ張ると、付き合わないことには引かないと察したのだろう、あー…と呻き声を上げてジュニアは渋々立ちあがった。
「一杯だけしか付き合わないからな」
そう言ってキッチンにコップを二つ取りにいくジュニアの背に、常磐は満足そうに口角をあげた。そうこなくちゃ。上機嫌で窓をからりと開けてベランダに出ると、頭上に広がる濃紺の空に白金の月がくっきり浮かび上がっている。
昨日とはうってかわって月見日和だ。雲ひとつない。おお、と感嘆の声を漏らして上を見上げているといつの間にか近付いてきていたジュニアに、ほら、とコップを差し出された。軽く礼を言ってコップ受け取って酒を注ぐと月が映りこんで、ゆらゆらと揺らめく。まさに月見酒だ。片方をジュニアに渡して乾杯をすると、ちびり、とジュニアは舐めるようにその酒を飲んだ。
「ちょっときついな」
常磐好みの辛口の日本酒に少し眉を顰めるジュニアに常磐はけらけらと笑った。
「この味がわからねーなんてかわいそー」
ジュニアは馬鹿にする常磐に不満げな目を向けたが、無駄だと思っているのか特に反論はせずに
「さっさと飲んで仕事に戻るからな」
と窓辺に腰かけた。常磐もその隣に座り、暫くの間何を話すでもなく二人で酒を飲みながら空を見上げていた。元々共通の会話など多い二人では無い。こうして沈黙がおりることも少なく無かった。けれど普段は饒舌な常磐ではあったが、静かにこうしているのも決して嫌いではなかった。無論相手がジュニアだというのもある。すう、と身体に馴染む酒と、冷たい夜風が心地よい。遠くからはりりりと虫の声が聞こえ、秋の気配を感じる。
悪くねぇなぁ。
そう思う常磐の肩に、ことり、と突然ジュニアが倒れかかってきた。
「おい何だよ重い」
頬を擽る黒髪を払いながら抗議の声を上げるが反応が無い。怪訝に思ってそっと顔を覗きこむと切れ長の瞳は安らかに閉じられ、くうくうと小さく寝息が聞こえてきた。疲れているところにアルコールを入れて、眠気が一気にきたのだろう。
「何だよオレがいんのにうたた寝とかマジありえねー」
常磐は眠るジュニアに眉を顰める。
「ちょっとーこれじゃ酒飲みづらいんですけどー」
更に文句を重ねても余程深く寝入ってしまっているのか、ジュニアは目を開かなかった。コップに残った酒を映った月ごと一気に呷ると、常磐はそっとその頭を撫でた。
「ん…」
ジュニアは小さく声を漏らし少し身じろぎをした。その姿を横目に捉えながら、常磐は満足そうに微笑んだ。
「お疲れ、ジュニア」
いっそ朝までこのまま寝てしまえばいい。翌朝仕事が進んでないと焦るジュニアの姿が目に浮かび、常磐はきししと笑った。
朝まで寄り添って眠ればいいと思います。
電車とかコスプレとかが好きなただのヲタクです。
基本マイナー思考でマイナー嗜好。
好きなものには全力です。
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